8階の孤独

文京の丘の上。スラッと伸びたコンクリートのマンション。部屋の大きな窓から街を見下ろすと。ここが文京区だからでしょうか。感じる街の雰囲気は、どこかレトロ。そして、けれど、室内は無機質な白とグレーの協奏。まるで、子供の頃にときめいた、レトロフューチャーの世界に迷い込んだようで。

借主を募集するお部屋は8階。バルコニーから眺めてみれば、眼下には壱岐坂通り。視線の先には、観覧車。水道橋の駅、あるいは後楽園駅から坂を登った、丘の上のひと部屋です。

エレベーターで8階に。玄関を開けると、ツヤっ、とした床。塩ビ床タイル仕様です。白のクロスとコンクリートの壁面に包まれた室内に身を置いて。やはり、視線は窓へと。北西に向いた開口部。その窓、大きくて。窓のそばまで近寄ってみれば。ヒョッ、とする感覚。私が高所恐怖症だからでしょうか。浮遊する感覚。

窓際の浮遊感だけでなく、私が好きな空間はこちら。斜めに張り出したキッチン。キッチンの周りには、冷蔵庫を置けるスペース。ぐるりと回れば、また居室。いやはや、このカウンターキッチン。食事作りは一旦脇に置いて。ターンテーブルか、あるいはiPhoneでも良いかもしれません。カウンターにデンっと置いて。ほら、ブース完成。友人を招いた、ささやかなホームパーティ、したいですね。家主がカウンターでシコシコと音選ぶ後ろで、バルコニーに出たMr.がMissに夢語るんでしょうね。そうですか。よろしくやってください。

もう1箇所、私がドキドキした場所、お伝えして良いのでしょうか。このお手洗いですね。やはり、艶のある床材と壁面の白のクロスですから。ちょっと光が差し込むだけで、神聖な様相を呈するのは、もはや避けられないのでしょうね。

やはり、この景色でしょうか。宙に浮いたかのような、窓際の居住まい。夜の頃になれば、灯る文京の明かり。レトロな街感と、無機質な室内。佐々木マキさんとか、手塚治虫でも21エモンでも良いです。昔ドキドキした近未来の街姿。無機な建物のガラスぎわで惑う彼を、思い出しませんか。思い出さないですか。そうですよね。どこか、ひとり街から取り残されたような感覚、感じられると思うんですけどね。8階の孤独、悪くない感覚だと思うんですけどね。どうなんでしょう。

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