風の歌を聴きながら

東京の東、かすかに潮の香りのする永代というエリア。ここに、思わず風の歌が聞こえてきそうな物件がありました。風の歌。言うだけ野暮なのですが、村上の春樹さんのあれですね。

駅前の門前通り楽しい門前仲町駅から隅田川方面へ歩くこと6分。河川の支流に所々停泊する船の姿から、この地の河岸の過去の記憶が感じられます。倉庫だったり、築年の古い建屋が居並ぶ場所に忽然と現れるシャープな5階建の建屋。今回募集の共同住宅です。接道からエントランスまでの長めのアプローチ。臨地の建物に挟まれた細く直線的なアプローチがなぜか気持ちに響きます。エントランスから内階段へと目を移しますと、外壁が極端に少ないことに気づきます。建屋正面からは気付きませんでしたが、周辺環境からよく見えますし、逆にこちらから周辺を見渡すこともできる。不思議な感覚。こちらの物件、複数のお部屋が募集中(3月11日現在)ですが、ご紹介するお部屋は5階の一室。メタリックなグレーの玄関ドアを開けるとまずは広めに取られたコンクリートの土間玄関。その先はコンクリの上にパーケットのウッドフローリングが敷かれています。角部屋のこのお部屋の間取りは、L字型のうなぎの寝床のようなタイプ。奥に進むとワイドな斜めの窓たちが。採光度合いがすごいです。パッと陽の光が入る部屋の感じもきっと心地良いのでしょうけど、雨が斜めの窓にぶつかるその音を聴きながら、じっと本を読む時間もまた気持ちが良い気がします。

正直な話、広いとは言えない間取りです。例えば折り畳み可能なベッドを活用したり、窓際にベンチを設置するなど、極力スペースを確保する必要性が感じられます。それにしても、土間玄関の広さは縦に自転車置いたりしたら楽しそうですね。

ところで、この物件の真のハイライトは斜めの窓にあらず、です。5階のお部屋のさらに上階、数段の階段を登った先にちょっとした屋上があるのですが、この屋上がなかなか良い空間なのです。殺風景でシンプルな屋上空間。風にのってやってくる潮の香りと微かに聞こえる隅田川を航行する船の音。周辺環境の生活音とも相まった風の歌に聞こえるような聞こえないような。とにもかくにも、何か言っているようで何も言っていないセリフを呟くには、最適な場所のように思えました。

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